『ジングルベール、ジングルベール。わあい、楽しいなあー』


……ってか!?

何がクリスマスイヴだよくそうっ。クリスマスイヴなんて嫌いだーっ!!












僕の名前は“りぃ”。性別、オス。太ってはいるがただの柴犬。

優柔不断で思いやりの無い“まさお”という最悪な人間に飼われちゃってる哀れなわんちゃんです。



今日はクリスマスイヴらしい。人間たちは楽しそうだし、なんだか街はピカピカしている。

僕にとっては三回目のクリスマスイヴ。まぁ一回目は殆ど覚えてないから二回目って感じかな。


クリスマスイヴ……嗚呼、クリスマスイヴ………


僕はクリスマスイヴというものが大嫌いだ。なぜなら、なぜなら……嗚呼………













それは去年のクリスマスイヴのこと。

人間たちは楽しそうだし、街はピカピカしているし、僕もなんだかウキウキしていた。

純粋に……純粋に、クリスマスイヴというものを楽しみにしていたんだ。
 



その日、まさおは入来の家へ行っていた。

僕も連れて行きたかったらしいが、入来の家はマンションだし、飼い猫とケンカする可能性もあるのでやめたらしい。

それを知ってから、僕のウキウキは更に増していった。

誰もが楽しみにしているクリスマスイヴという日を、まさお抜きで過ごせるなんて幸せ……ってね。



しかし……僕は、どこまでも哀れなわんちゃんだった。




クリスマスイヴの前日、まさおの両親が旅行から帰って来たので僕はまさおの両親とクリスマスイヴを過ごすことになった。

実は長い間旅行中だったまさおの両親とはこの日が初対面だったけど、別に普通そうな人達だったので僕は特に気にしていなかった。

まさおと一緒でないなら、それで良かったのだ。




そしてやって来たクリスマスイヴ当日。

いつもより早めの散歩をした後、まさおは入来の家へと向かった。




「りぃちゃん、寒いからオウチに入ろっか」

少し経った後、僕はまさおのお母さんに抱えられて家の中へ入った。微妙にひっかかる呼び方をされながら。


「りぃちゃん、ほおら、今からクリスマスツリーを飾るわよ〜」

言いながらまさおのお母さんは木に色んなものを引っ掛けていった。


「おお母さん、ツリーを飾るんだな?」

今度はまさおのお父さんが現れて、

「よしよし、可愛いなあお前は」

僕をじゃかじゃかと撫で始めた……逆撫でしたり、掻き回したり、しながら……

 



そうこうしている内に家の中がどんどんごちゃごちゃしていった。

まさおのお父さんもお母さんも満足そうだったけど、思いつく限りのものを飾った感じで、何だか…やっぱりごちゃごちゃ。

別に僕には色が分からないから、という訳でも無さそうだ。


二人はまさおと違って物事を決めるのが早いらしい。が、いささか早すぎる気が。

何でもかんでも飾りゃいいってものではないだろう。


「りぃちゃーん!パーティーの始まりよ〜」

ちょっと嫌な予感がした。けど、僕はされるがままにまさおのお父さんの膝の上。
 

―――かしゅっ……


何かを頭にはめられた。

「おお、似合うじゃないか」


―――ぽすっ……


何かを頭に乗せられた。

「あらまあ。トナカイさんカチューシャにトンガリお帽子も可愛いわあ〜」

……何っ!?ソレ……

「ほら、ね。可愛いでしょう?」

まさおのお母さんは僕に鏡を見せた。



……………。



「気に入ってるのねー、りぃちゃん。じゃあ、食べましょうか」

いや、何も言ってないし……尻尾とか振ってないし……

 


その後僕は、いつもより美味しいドッグフードを食べた。

無添加で有機材料使用の高級品だ!……って、ああ、食べ物で気をよくするなんて、愚か者……


「じゃー、りぃちゃん、次はケーキよ〜」

「最近は犬用なんてのがあるんだなあ。ついつい買ってしまったよ。アッハッハ」

ケーキ……ケーキがあるのか……


僕は正直者だから尻尾を振った。

トナカイさんカチューシャやトンガリお帽子は嬉しくないが、ケーキは実に嬉しい。

これが、これがクリスマスイヴの楽しみなのかな?

「あらりぃちゃん、嬉しいのね」

うん、嬉しい。嬉しいよお母さん。

「そうかそうか、買ってよかったよ」

まだ食べてないのに尻尾振り振り大サービスの僕は、またじゃっかじゃかと無茶苦茶に撫でられているのなんてお構いなしだった。

「ほおらこれがケーキよ〜。お父さん、ロウソクに火つけて」

「了解」


カチッ…ぼぅっ……


お父さんはライターを取り出し、ロウソクに火を付けた。

「じゃー電気消すわよー」


パッ


真っ暗になり、ロウソクの炎だけが揺らめく。


パッ


また明るくなった。これはクリスマスイヴの儀式なのかな。

「お父さん!私達のケーキを忘れてるじゃない」

「ああ、本当だ。アッハッハ」


……別に儀式では無かったらしい。

お母さんはもう一つケーキを持ってきて、またお父さんがロウソクに火を付けた。


パッ


また暗くなった。

何が起きるのかな。なんか凄くワクワクしてきた。


「じゃありぃちゃん、ロウソクに向かって“ふぅっ”てしてみて」

“ふうっ”て?僕分からないよお母さん。どうしたらいいの?
 

どうしようもなくなった僕は、


『ワンッ』


吠えてみた、ら、火が消えた。


パーンッ!パパーンッ!!


「「メリークリスマース!」」

消えたと思ったら耳をつんざく凄い音と共に何かびろびろと降ってきた。

「りぃちゃん上手に消したわねぇー」

うん…吠えてみただけなんだけどね。

「よし、じゃあ食べようか」

「食べましょ食べましょ」

僕の前にはまあるいケーキ。先週放送された『わんわん倶楽部』で紹介していた、まさにそれ。

夢にまでみた、まあるいケーキ……


「あららりぃちゃん、よだれが出てる」

え?だって……じゅるるー

「よし、ロウソク取ったから食べていいぞー」

ホント?やったっ!いっただっきま――

「ちょっと待って!!」

何っ!?

「ほら、ロウがクリームに垂れてるじゃない」

「おお、危ない危ない」

ロウ?いいよそんなの。ケーキが食べられるならロウソク百本だって怖くはないさっ!

「りぃちゃんに変なもの食べさせられないわ。ちゃんと取り除かないと……」

「あ、ここにもあったぞ……」

僕、早く食べたいんだけどなあ……うーずうずうず……
 

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、いや知ってるはずなのに忘れてる二人は、異常なまでにロウを取り除くのに熱中していた。


「よし、これでいいな」

「はい、りぃちゃん、今度こそ召し上がれ」

ふぅ……。じゃあ、いっただっきま――

「あああっと待った!!」

今度は何っ!?

「まさおが昨日、『りぃは太り気味だからあんまり太りそうなものを食べさせるな』って言ってなかったか?」

「そう言えば、言ってたわね」

えっ?えっ?

「じゃあこのケーキをまるまる食べさせる訳にはいかないなあ」

「そうねえ、りぃちゃんはコロコロしてて可愛いんだけど、やっぱり健康が第一だしねえ」

なっ…ななななっ!

「今日のところは…半分、にしておくかな」

―――っ!!がびょ――ん……僕ショ―――ック!!


まあるいケーキにがっつくのが…僕のささやかな夢だったのに……

そんな小さな幸せまで奪われてしまう僕って…僕って……何て可哀想なんだ……

まさおの…まさおのバッキャロ――ウ!!


「えっとじゃあ包丁包丁……」

まあるいケーキに……

「パンきりナイフの方がよくないか?」

思いっきりかぶりついて……

「そうね。ナイフナイフ……」

口の周りについたクリームをペロリと舐めて……

「あったあった」

そんな至福の時を……



ガッタ―――ンッ!!








ダンッ











……はっ…ははっ………

「おお、母さん大丈夫か?全く、ドジなんだから。アッハッハ」

「あはは。ごめんなさいね」

……因みに最初の効果音はお母さんが無駄に飾った木につまずいて、椅子を巻き添えにしてずっこけた音で、

次の効果音はお母さんが持ってたナイフが、ずっこけた拍子に手から放たれて、机に、僕の目の前に刺さった音……

というか、これ、パンきりナイフじゃないよねぇお母さん。これって、普通に包丁だよねえ?


「おや?母さん、これは刺身包丁じゃないかい?」

お父さんは平然と机から包丁を抜き取って、しげしげと眺めた。

「あらほんと。刃がボロボロになったから仕舞っておいたやつだわ」

冗談とかじゃなくて、やっぱり本当に間違えたんだね、お母さん……

「えーっと、パンきりナイフはどこだったかしら……」

お父さんから刺身包丁を受け取ると、またお母さんはパンきりナイフを探し始めた。

「あ、あったわ。今度こそパンきりナイフ」

「よし、じゃあお父さんが真っ二つに切ってやるぞ」

真っ二つって…お父さん、ケーキを二つに切るだけでしょ。

「はい、真っ二つに切っちゃって」

パンきりナイフを渡しつつお母さんまで……

「あ、そうだわ。シャンパン持って来るわね」

シャンパンって…この二人がお酒を飲むと、どうなっちゃうんだろう……

「さありぃ、ケーキ入刀ー」

言いつつお父さんは、パンきりナイフと僕の手を一緒に握ってケーキを真っ二つに切り始めた。

そう、真っ二つに。

サンタさんも真っ二つ……
 

サンタさんの右半分がぽてっと倒れた。なんか、残酷。ああ、僕も共犯だあっ。


「シャンパン持って来たわよー。あ、ちゃんと真っ二つになったわね」

うん、ちゃんときっちりサンタさんもね。

「じゃー母さん、乾杯でもしようか」

「そうね」

お母さんはグラスにシャンパンを注いだ。


「「乾杯ー」」


カチン


「りぃちゃん、ケーキ食べていいわよ」

ホント?ホントだよね?よし、今度こそ、今度こそ、いっただっきま――……どこから食べよう。
 

まずクリームをひと舐め?首を傾けて横からがぶり?それとも真っ二つになったサンタさん?

この半分になってしまったケーキを、最も楽しく食べるにはどうしたらいいだろう…うーん……

「どうしたの?りぃちゃん。ケーキいや?」

えっ?違うっ。ケーキ大好きだよ。食べたことないけど大好きだよ。

「うーむ、嫌いなのかもしれんなあ」

違うっ、違うって。僕はただ、まあるいケーキにかぶりつく僕しか想像してなかったから、だから、だから戸惑っているだけなんだ。

「食べないのかしら?」

えっ、いや、食べますっ。食べますともっ。もう迷っている時間は無いっ。と、とにかく食べるぞっ。


 ――がぶり。


「あらりぃちゃん、やっぱり好きなのね」

そうだよ、好きなんだよ。好きなっ


『フンゴッフゴッ……フッ…フンッ』


「ん?りぃ、どうしたんだ?」

ク、クリームが鼻に……

「えっ、まさか、アレルギーとかっ!」

いや、違うっ、クリームが……

「もしかして、だから最初食べようとしなかったのか!?」

違う違う……

「私達が折角買ってきたケーキだから、無理矢理に食べようとしたのねっ」

えっ

「そうか、父さん達を悲しませまいと思ってりぃは……」

ええっ;

「いいのよりぃちゃん、無理に食べなくて。私達はりぃちゃんのその気持ちだけで嬉しいわ」

ちょちょちょっ;;

「そうだぞりぃ、お父さんはもう、嬉しくて涙が出そうだよ」

「じゃあケーキはもう片付けるわね」

え、嘘…待って!待ってよケーキ!行かないでくれケーキ!お母さんに騙されるんじゃないよケーキィーッ!!

『ワンッワンワンッ!』

僕は必死でケーキを引き止めようとした。でも……

「りぃ、もう無理しなくていいんだよ。お父さん達は、りぃのその気持ちだけで充分なんだよ……」

なに感傷に浸ってるんだよお父さん。全然よくないよ、僕はケーキが食べたいんだようっ。

「だからりぃちゃん、いいのよこんなケーキ。こんな…ケーキッ!!」


―――べちょっ
 

なっ……


お母さんは、僕のケーキを勢いよく投げた……お父さんの顔に、ジャストミート……


「母さん、よくぞ投げた。よし、父さんだって……」

お、怒らないの?お父さん……

「この、残りの半分のケーキも……目障り、だっ!!」


―――べちょっ
 

あ……


お父さんは、残りの半分のケーキを勢いよく投げた……お母さんの顔に、ジャストミート……


「お父さん、飲むわよ。飲むわよーっ!!」

「ああ、飲むぞ。飲むぞーっ!!」

いや、待って……。お願いだから、もう飲まないで……

だって、もう絶対充分酔っ払ってるでしょ?たったの、たったのグラス一杯で、もう充分酔っ払ってるでしょーっ!?









グビグビ……










グビグビ……








「お父さん、はいっ」

「母さんも、ほれっ」










グビグビ……
 










グビグビ……











「まだまだ」

「ああ、もっと飲むぞっ」


……やめて。やめて下さい。

シャンパンが、シャンパンがどんどん二人の胃の中にーっ。

二人共互いにどんどん注いで、どんどん飲んで……あ、そうだ、今の内に、逃げてしまおう。
 


―――ぐえっ……



「りぃ、何処に行くんだ?パーティーはこれからだぞーっ!」

お父さんは力強く僕を引き止めた。本当に力強く、内臓が潰れるかと思う程に……


お父さん、力の加減が出来なくなってるよ。

僕……殺されるかも……

ああ、そうだ、さっきのサンタさんみたいに……ま、真っ二つに………イヤ――――ッ!!


「あらら、シャンパン無くなっちゃったわ」

あ……飲み干しちゃった……

「よしじゃあ、ダンスでも踊ろうか!」

どうぞどうぞ、ご夫婦で仲良く踊って下さい。

「りぃ、お父さんがちゃんとエスコートしてやるから心配は要らないぞっ」

……はい、何と無くそんな気はしてましたよ。でも、エスコートって、僕オスなんだけどなあ……

「シャルウィーダーンス?イエーッ!!」

「イエーッ!!アッハッハ」

お母さんも、お父さんも、壊れてるよ……

「あら?りぃちゃんだけ仲間外れじゃない」

「ん?本当だ。りぃも仲間に入れてやらないとっ」

……何のこと?

「りぃちゃんも仲間入り〜」

「仲間入り〜」


僕が頭上に疑問符を並べていた、その時、



―――べちょっ



ぶほっ……


「これでりぃは仲間外れじゃないぞ」

「良かったわね」

二人の手が、伸びてきて、僕の顔を、思いっきりケーキに押し付けた。
 

甘っ


人間用のケーキって、甘い……甘すぎる。


ああ、確かにこれで皆顔にクリーム付けた状態になったよ。

でもさ、僕が仲間外れって言うんだったら、二人が顔洗えばいいじゃんっ!

何で僕の美しい顔を、人間用ケーキのクリームで汚されなきゃいけないんだっ!

僕の顔に付いていいのは、僕に舐められる運命にある、犬用ケーキのクリームだけなんだぞーっ!!












それから僕は、長いこと踊らされて、お父さんに拘束されながら、さんざん昔話を聞かされて……

別に僕、まさおの小さい頃の話とか興味無いし。

ましてや、お父さんとお母さんが初めて手を繋いだ日のこととか、僕の人生で最も無駄な記憶になりそうだし……


しかもさ、お父さん、僕をしっかり拘束したまま寝ちゃったしっ!

……苦しい。ううーっ。誰か助けてえー。



「ただいまあ〜」


ん?……まさおだっ!まさおっまさおっ!助けてくれまさおっ!今だけ好きになってやるからこの哀れな僕を助けてくれーっ!!


「あ、りぃただいまあ〜」

『ワンッワンワンッ!』

まさお〜、助けてくれよ〜。お前の両親ってばさ〜この僕を……



ぐいっ――むぎゅっ



「出迎えてくれるのかりぃ〜。んー、お前はいっつも可愛いな〜」

まーさおおおおおおおっ!!……ぐえっ。苦しい……

「俺はお前を愛してるぞ〜。アハハハハハ」

まさおは僕を無理矢理にお父さんの腕から引っ張り出し、骨が砕けるほどの圧力をかけてきた……
 
むはっ。お酒臭い……。まさおのやつ、完全に出来上がっちゃってるーっ!!

「りぃ、寝るぞーっ!今夜はお前を離さないぞーっ!」

いや、離して下さい。

「俺の部屋にぃー出発ー!!」
 



イヤ――――ッ!!

























そうだ、それで結局、朝までまさおに拘束されてたんだ……

嫌だ、もう去年みたいなのはうんざりだ。クリスマスイヴなんてどっか行ってしまえっ!クリスマスイヴの何が楽しいんだっ!

あ、そう言えば、クリスマスイヴの次の日は、クリスマスって言うらしいけど……何をする日なんだろう?

んー、クリスマスを過ぎたら街のピカピカが少なくなるから、クリスマスイヴの片付けをする日なのかな?

うん、そうだ、クリスマスはクリスマスイヴの付属品なんだ。

 


はあ、僕、今年のクリスマスイヴは独りで過ごしたいなあ。









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